お盆休みまっただ中の8月15日、イタリアに住む祖父母を訪ねようとした女児(6歳)が、成田空港から出国できず、足止めを食わされた。報道によると、その原因は、埼玉県の職員が誤ってパスポートを失効させたことだった。県はすぐに謝罪し、失効も取り消したが、女児の出発は翌16日になってしまったようだ。パスポートの誤失効は非常に珍しいようだが、たとえば今回のように、行政のミスが原因で飛行機を変更せざるをえなくなったような場合には、余分にかかった旅費を賠償してもらえるのだろうか。また、休日が台なしになったことに対する補償は、請求できるのだろうか。行政トラブルにくわしい一藤剛志弁護士に聞いた。●賠償範囲は「相当因果関係」のあるものに限られる「そういった場合の対応は『国家賠償法』に規定されています。公務員が仕事上の故意や過失によって、違法な形で他人に損害を与えたときは、国や公共団体が賠償責任を負います。発給したパスポートを誤って失効させてしまうことは、まさに過失による違法行為といえます。したがって、生じた損害に対しては賠償責任が発生します。今回はパスポートを失効させたのは埼玉県ですので、県が損害賠償責任を負うことになります」――どんな損害が補償してもらえる?「賠償される損害の範囲は、いわゆる『相当因果関係』が認められるものに限られます。すなわち、(1)そのミスから一般的に発生すると考えられる損害と、(2)当事者(今回の場合は県)が特別の事情を知っていた、または知ることができた特別の損害に限定されるのです」――それでは、パスポートの「誤失効」が空港で発覚し、そのせいで出国ができなかった場合は?「今回のようなケースでは、たとえば飛行機等のキャンセル費用や、日程変更で発生する航空運賃の増額分などは、余計にかかる一般的な費用と言えますから、損害賠償が認められやすいと思われます」――休日を台なしにされたことへの「補償」もありえる?「出国目的は人それぞれですから、休日を台なしにされた精神的苦痛は、『パスポートの誤失効から一般的に発生する損害』とは言いがたいと思われます。ただし、たとえばパスポート発給の際に提出した申請書の出国目的の記載等から、出国できないことで精神的苦痛を受けることを県も知っていた、または知りえたと言うことができれば、賠償請求が認められる余地もあると考えます」ただ、もし金銭的な賠償が認められたとしても、ミスで台なしになった時間は戻ってこないし、解決するまでには大きな不安を味わうことになるだろう。今回のトラブル発生を契機に、一層のミス低減に取り組んでもらいたい。(弁護士ドットコムトピックス)【取材協力弁護士】一藤剛志(いちふじ・つよし)弁護士第二東京弁護士会多摩支部・広報委員会委員長、同・震災対応プロジェクトチーム座長、同・中小企業プロジェクトチーム委員、公益社団法人立川法人会監事事務所名:弁護士法人TNLAW支所立川ニアレスト法律事務所事務所
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